セッションの後半では、トランスジェンダーのY氏と、ゲイを公表するS氏がカミングアウトまでの苦労や不安、現在も続く葛藤などを赤裸々に語りました。
両親に「男らしく」と厳格に育てられたY氏は、幼少期から性自認に違和感を持ったまま、誰にも言い出せずに成長しました。男社会の文化が色濃く残る建設業界 で技術者として活躍し、結婚して家庭を持つも、女装してイベントに参加していることが思わぬ形で職場に知られてしまいます。「ショックでしばらくは会社に行けなくなりましたが、これ以上自分に嘘はつけずカミングアウトしました」(Y氏)。
Y氏のカミングアウトで会社は大混乱。一時は「会社に拒絶された」と落ち込みます。約2年を経て「周りはどう反応すればいいかわからなかっただけ」だと気づきますが、自分が一歩近づくと、相手は2歩下がってしまいます。0.5であれば相手も0.5近づいてくれる、そう感じたY氏は、相手との距離感を気遣いながら対話を繰り返したそうです。
1歩ずつ丁寧に前に進んできたY氏は「社内制度を作るより、受け入れる風土を醸成することの方が私は大事だと思います。そうした風土があれば、0.5+0.5は1ではなく無限大になる」と語りました。
一方、20歳のときに、自分の性的指向を受け入れたS氏。小学校の教員として働く中で、外見は男性であるために「彼女はいるの?」「結婚は?」など、男女の恋愛を想定した会話に悩まされたと言います。嘘をつき続けることに耐え切れず、「この人なら自分を傷つけない」と確信した人にのみカミングアウトを始めます。
本当の自分を知ってもらえたことで、職場での心理的安全性は大きく広がったそうです。しかし、さらなる社会的カミングアウトを決心した際には「職場にいられなくなるのでは?」「教育委員会に抗議の電話が来るのでは?」と悩んだ末に退職。周囲は引き留めてくれ、生徒や保護者もポジティブに受け止めてくれたことが退職後に分かり、「結局は自分の問題だった」と気づいたそうです。
現在の勤務先ではゲイであること公表し、仕事に100%集中できているというS氏。一方で、「カミングアウトすればすべてがバラ色ではない」とも言います。携帯電話の家族割など、同性カップルでも使えるサービスは増えたものの、未だに結婚は認められていません。「個人のカミングアウトだけでは限界で、制度の必要性も痛感しています」(S氏)。
また、「会社で研修受けた親が家庭で話をするので、LGBTQについて知っている子どもは増えています。数年前には考えられなかったですが、こうした企業の研修や取り組みが、巡り巡って子どもの教育にも届くと実感しています」と語りました。