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2024年5月10日
日本メドトロニック株式会社
-日本が国際共同治験に参加したパルスフィールドアブレーションシステムとして日本初の承認-
日本メドトロニック株式会社(本社:東京都港区)は、「PulseSelect™ Pulsed Field Ablation(パルスセレクトパルスフィールドアブレーション)システム」(以下、PulseSelect PFAシステム)が、薬剤抵抗性の再発性症候性発作性心房細動の治療、及び薬剤抵抗性の症候性持続性心房細動の治療に用いるシステムとして、2024年5月に薬事承認を取得したことをお知らせいたします。今後、保険診療下で治療を提供できるよう保険適用に向けた手続きを開始しています。
PulseSelect PFA Loopカテーテル 医療機器承認番号:30600BZX00082000
心房細動は、潜在的な方を含め患者数が最も多い不整脈であり、日本国内では100万人超1 、世界で6,000万人以上2 が罹患していると推定されています。心房細動の治療には、薬物治療とカテーテルアブレーションがあります。カテーテルアブレーションは、カテーテルと呼ばれる細い管を脚の付け根から血管(静脈)を通じて心臓に入れ、心房細動の原因となる不規則な電気信号の発生部位を焼灼(アブレーション)することで、異常な電気信号の流れを遮断する治療法です。
既存のカテーテルアブレーションには、主に高周波電流を用いる方法と冷却剤を用いる方法があります。高周波電流を用いる方法では、心臓内のカテーテル電極と患者さんの体表面に貼り付けた対極板の間に高周波電流を流し、組織中に発生した熱により焼灼巣(リージョン)をつくることで、異常な電気信号を遮断します。一方、冷却剤を用いる方法では、主にバルーン型のカテーテルが用いられ、冷却されたバルーンを組織に押し当てることで、組織中の熱を奪い、リージョンをつくります。これらの治療の有効性と安全性は、テクノロジーの発展とともに向上しています。しかしながら、いずれも組織内を伝わる熱的な作用でリージョンをつくるという特性上、標的である心臓組織を変性させるのみならず、その周囲にある食道や横隔神経、肺静脈などを損傷してしまう合併症リスクが課題とされてきました。
そこで、この潜在的な合併症リスクを低減するために登場した新たなカテーテルアブレーションがパルスフィールドアブレーションです。既存のカテーテルアブレーションが、熱の力を利用するのに対して、パルスフィールドアブレーションは電気の力を利用します。パルスフィールドアブレーションでは、カテーテル電極にパルス電圧をかけることで電極周囲に電場(パルスフィールド)を形成し、このパルスフィールドが細胞に作用を及ぼすことでリージョンをつくります。これまでの研究により、心筋細胞は、横隔神経や食道、肺静脈を構成する細胞に比べて、パルスフィールドに対する影響をより受けやすいことが示されています。そのため、パルスフィールドアブレーションでは、この特性を利用することで、心臓にのみリージョンを形成して治療の目的を達成しながら、食道や横隔神経、肺静脈といった周辺組織に関する合併症の発生リスクを低減することが期待されています。
メドトロニックは、2006年から不可逆的電気穿孔と呼ばれる技術を外科手術に応用するための研究を開始いたしました。そして2014年からは心臓内アブレーションへの応用に関する研究に移行し、PulseSelect PFAシステムの礎を築いてきました。PulseSelect PFAシステムは、アブレーションと診断の両機能を備えたPulseSelect PFA Loopカテーテルと、パルス電圧を送出するためのPulseSelect PFAジェネレータによって主に構成される、心房細動治療用のアブレーションシステムです。本システムを用いたアブレーションの、発作性及び持続性心房細動患者に対する安全性と有効性を評価するため、日本を含む9か国において、国際共同治験であるPULSED AF試験3 が実施されました。なお、本試験は、日本国内の施設が初めて参加した、パルスフィールドアブレーションに関する国際共同治験です。この試験において、発作性心房細動群及び持続性心房細動群のいずれにおいても、事前に設定された主要安全性目的及び主要有効性目的の性能目標が、統計的な有意差をもって達成されたことが示されました。
東京慈恵会医科大学 教授 山根 禎一 先生は、次のように述べています。「メドトロニックのPulseSelect PFAシステムの薬事承認は、日本における心房細動治療の発展にとって大きな意味を持つと考えています。特に、日本国内の施設が国際共同治験に参加し、国内症例を含む臨床成績に基づいて薬事承認が得られたことには大きな意義を感じます。パルスフィールドアブレーションに期待する点は、心筋組織への選択性が高く、周辺組織損傷の発生率が低減されるという点です。これを機に、心房細動患者さんにとって治療の選択肢が広がり、より多くの患者さんが根治を目指す治療を受けられることを期待しています。」
カーディアックアブレーションソリューションズ・シニアビジネスダイレクターの梅林進一郎は、次のように述べています。「今回、新しい心房細動治療システムであるPulseSelect PFAシステムの薬事承認を取得できたことを大変うれしく思います。欧米に遅れることなく本製品を日本においても導入できることを誇りに思います。この治療を導入することで、ひとりでも多くの心房細動患者さんのQOLの向上に貢献できるよう、社員一人ひとりが全力を尽くしてまいります。」
超高齢社会を迎え今後もその患者数が増加すると言われている心房細動に対し、メドトロニックは、診断、マネジメント、そして治療と多面的に取り組み、健康に暮らせる社会の実現を目指し貢献してまいります。
【心房細動とその治療法】
心房細動は最も発症率の高い不整脈のひとつで、日本では現在100万人を超える患者さんがいると言われています1 。心房細動を発症すると、脳梗塞や心不全、認知症の発症リスクが高まることも報告されています 4, 5, 6, 7, 8, 9。心房細動の症状には、脈の乱れ、胸部の不快感、胸の痛み、動悸、息苦しさ、運動時の疲労感、めまいなどがあげられますが、半数程度の患者さんは自覚症状がないとも言われています5。心房細動の治療には、心房細動を受け入れてうまく付き合っていく方法(レートコントロール治療)と、心房細動そのものを取り除く方法(リズムコントロール治療)があります。このうちリズムコントロール治療には、発作を抑制する抗不整脈薬による薬物治療と、根治を目指すカテーテルアブレーションがあります。カテーテルアブレーションは、患者さんの症状に応じて適用が検討されます。外科的な手術と比べて、治療に要する時間が短く、身体への負担が少ないことが特徴です。
【パルスフィールドアブレーションとは】
パルスフィールドアブレーションは、不可逆的電気穿孔と呼ばれる技術を、心臓のアブレーションに応用した治療です。カテーテルの電極間にパルス状の電圧をかけることでパルスフィールドが形成されると、その中にある細胞が電荷の力を受けます。これにより、細胞膜に回復不能な小さい孔が開き、細胞膜の透過性が過度に進むことで、細胞死が引き起こされます(不可逆的電気穿孔)。前述の通り、細胞死が引き起こされる電場強度は、細胞の種類ごとに異なることが知られています。この閾値の差を利用することで、心臓周囲にある食道や横隔神経、肺静脈といった組織を温存しながら、標的となる心筋組織に対してのみ細胞死を引き起こす組織選択性という特長を利用した治療です。
【PULSED AF 試験について】
PULSED AF試験は、薬剤抵抗性の再発性症候性の発作性心房細動、及び薬剤抵抗性の症候性の持続性心房細動治療に対する本システムの有効性及び安全性の評価を目的とした、前向き・単群・介入・非盲検化・多施設国際共同治験です。本試験のピボタル段階には、米国、欧州、カナダ、オーストラリア、日本が参加しました。本システムを用いてアブレーション治療を行った発作性心房細動150症例 (うち本邦登録症例: 16症例) と持続性心房細動150症例 (うち本邦登録症例: 16症例) が解析されました。主要有効性評価(治療後12か月間の治療成功率)は、発作性心房細動群で66.2%、持続性心房細動群で55.1%であり、両群ともに予め設定した性能目標(発作性50%, 持続性40%)を達成したことが示されました。また主要安全性評価(治療後6か月の間に発生した重篤な有害事象の発生率)は、発作性心房細動群及び持続性心房細動群ともに0.7%であり、予め設定した性能目標 (13%) を達成したことが示されました。
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